◆設計のポイント
1)異年齢保育という方針に沿った空間創り
2)回遊性のある間取りプラン
3)保育室のカタチ 凹凸ある空間を活かす
4)日当たりのよい大開口
ここまでこの記事
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5)木という自然素材
6)収納について
7)水廻りについて
8)2階というメリット
9)その他
1)異年齢保育という方針に沿った空間創り
通常の保育園は、年齢ごとに部屋があり、
上下の年齢幼児との交流は、日中はあまり無いのが一般的だと思われます。
(早朝や夕方以降は合流クラスには成る)
今回の保育園は、0歳から1歳児のクラス空間と、2歳から5歳児のクラス空間と
大きく2つの保育室から構成されています。
異年齢保育だから、部屋は細かく分けない、という方針は、
設計面ではメリットも多く、例えば廊下が不要、区切る建具などが不要、等、
保育スペースの限られた条件下では有難い方針ではあります。
もちろん、i-net
さんは今までの保育の実績から、『異年齢保育の良さ』を
実感としてお持ちで、それゆえ今回の保育園計画にも基本方針として掲げており、
設計的メリットだけとか、省スペースでも実現可能、という事で取り入れた考え方ではない、と
お伝えしておきます。
2)回遊性のある間取りプラン
回遊性=部屋同士の行き来が行き止まり無く、繋がっている動線計画。
今回は、水廻り空間がコアとなり、大きな2つの保育室を行き来出来るようになっており、
ホールとも繋がっています。
これは、当初、i-net 理事長さん自らのラフ案が元になっており、実際の運用を細部にわたり
考慮している事が良くわかり、これらを元に進めていきました。
回遊性があると、保育士さん達の利便性や大人の動線がスムーズになります。
これは、こどもの空間に大人がズカズカと立ち入ったり横切る事が無い、という、子どもの側に
寄り添った配慮である、、とも言えるのです。
又、時間により保育の状態が変化する(早朝や晩)事を想定し、保育士も子ども達にも使いやすく、
変化していく状況への対応やココロに優しい配置計画へとなっています。
大きな園や広さが潤沢にある郊外の保育園や、一から設計する単体の新築の場合では
実現しやすい回遊性プランですが、ビルの2階の保育園という条件下で実現できたのは、いくつかの
条件が重なった結果だといえます。
※平面プランを見ると判りやすいですが、掲載は控えさせて頂いております。
実際のプランニングは面積確保など法規クリアしつつ、設備などの所定数を入れなければならず、
配置には苦慮しました(笑)。 又、引戸の戸袋や有効幅員、収納の内法確保による希望収納など、
検討事項は多く、私も鍛えられた(笑)プランニングとなりました。
↑ 保育室② メインのゾーンの写真左手に2歳児ゾーンがある
3)保育室のカタチ 凹凸ある空間を活かす
一般的に保育室は正形=死角のない四角形 がいい、と言われます。
それは管理する側の保育士や預ける保護者の心理として、常に子供を視界に入れておきたいと
いう考えからで、当然といえば当然ではあります。
今回の保育園スペースとして与えられた空間は、真四角ではない少しイレギュラーな形。
なぜこのような形か、は次の4)の開口の説明で行うとして・・・
このイレギュラーな形は(そんなにいうほど突飛な形ではないのですが)、異年齢保育という方針を
形に表す上で、メリットに転じ、それぞれのゾーンごとに各年齢が集う事が出来つつ、ゆるやかに
各ゾーンがつながるという、異年齢保育の運用をひそかに支え寄り添う空間、になっています。
又、子どもは小さい空間やちょっとした窪みのような場所に入り込んで遊ぶのが好きですよね。
四角い広い空間では落ち着かず、少し囲われた小さめの空間の方が気持ちが落ち着くという子どもも
いるのではないかと思います。
そして、食事、お昼寝、遊び、と、過ごす場所が異なることで、気持ちと行動の切り替えが上手くいく
場合も多いです。 過ごすシーンと空間が連動できるような空間創りを目指しました。
↑ テラスに面した4m分の窓 全部で3カ所有り
ビルトイン収納の横はRCの柱位置となっている
4)日当たりのよい 大開口
南西のテラスに向かって4mほどの大開口が3カ所あり、日当たりと明るさ、空間に広がりをもたらし、
ビル内保育園ということを忘れさせてくれるような、開放感があります。
(通常のビル内の保育園って、なんだか息苦しさというか、圧迫感を感じることはありませんか?)
基本の空間構成、基本設計において、上階の柱スパンより下階の柱スパンを大きく広げて、2階部分に
大開口が確保できるような設計になっています。 これにより、テラスも空間の一部に取り込めるほどの大開口が
実現しており、オーナー側・本体設計側からの配慮が感じられる部分でもあります。
保育園スペースとしての面積が大きいため、法規上の採光面積や排煙確保のため、必然的に窓は
大きめに確保する必要があるのですが、 やはりこの大開口やテラスは、内装設計でいくら逆立ちしても
手に入れる事の出来ない、この空間固有の好環境なのです。
私が設計で心掛けた事は、奥のエントランスホールやコア部分に位置する水廻りにも、その明るさが届くように、
部屋を区切る間仕切り壁面に、ランマとなるFIX窓(ガラスの開かない窓)を設けました。
明るさを感じる、太陽の日差しを感じるという事は、長時間過ごす場所で時間の感覚を養う事、季節を感じる事
にも繋がるのです。
最後までお読み頂き、ありがとうございました!
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